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最高裁判所第一小法廷 昭和36年(オ)520号 判決 1961年12月07日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

所論は縷々論述するがこれを要約すれば、原判決及びその引用する第一審判決には、原子力基本法一九条を、殊に同条にいう賞金の意味を所論のように解釈しない法令解釈上の誤りがあるばかりでなく、右法条の内容は権限的にして義務的であるに拘らず、国が上告人の本件申請にかかる事項を施行するの意思皆無なるは、憲法七三条にいわゆる法律を誠実に執行しないものであつて違憲であるとの主張に対し、原裁判所は何ら内容的な判断を示さず、ただ漫然と上告人の独自の見解であると一蹴し去つたのは、正当な法理的理由を附しないものである、という主張に帰する。

しかしながら、思うに、原子力基本法一九条は原子力の研究、開発及び利用を推進するため、その助成策の一として、政府が原子力に関する特許出願にかかる発明または特許発明に関し、予算の範囲内において、政府の裁量で、奨励金等を交付することが出来る旨を規定したに止まり、政府が右の発明者に対し奨励金等を交付すべき旨政府に義務付けをしたものではないものと解するを相当とする。されば、右と反対の見解に立つ所論は独自の見解というの外なく、採用の限りではない。従つて、その見解を前提としてのみ或は採用の可能性を見出されるであろう所論違憲の主張、及びその他も、自ら前提を欠くに帰し、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

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